当時「アクアマン」とどっちを観るか、悩んだSFファンタジー作品。「ロード・オブ・ザ・リング」のピーター・ジャクソンやクリスチャン・リヴァースが、フィリップ・リーヴの小説「移動都市」を映画化したもの。
個性的なデストピア世界観が映像化されることで、大変魅力的なファンタジーに仕上がっている・・と言いたかったが、これまた半端な作品と言わざるを得ない。
出だしの掴みは良かった。巨大な移動都市が、逃げる弱小都市をモリで捕まえて捕食する・・なんてファンタジックな発想だろう。物理を超えたアナログ思考のデザインが実に魅惑的だ。そんな世界で主人公達の冒険が始まる。想像力だけで終始する本の中であればいいが、映像化するとなると夢を壊さぬよう留意が必要だ。なのに中盤以降は次第に既視化されたSFギミックに移行して行き、クライマックスなんて「ナウシカ」の表面だけパクったような展開にガッカリ至極だ。
この作品には深遠なテーマも何もないので、その魅惑的な世界観だけが魅力のすべてなのに、それを万人にウケるSF大作に寄せてどうすると言いたい。原作を読んでいるわけではないが、そこから中途半端なのだろうか。ファンタジックな路線ではなく、SFの王道路線を志向するなら、主人公を演じた2人の俳優にもっと魅力をあたえるべきだ。特に男の主人公がいただけない。成長を描くわけでもなく、前半と後半のコントラストが弱すぎる。尊敬する父親が悪人と知った娘のキャサリンも、実に弱い描写で残念だ。外の世界と移動都市内の2局面で話を展開するのに適っていない。
観終わって、終始一貫性のある「アクアマン」を選んでよかったと思った。