シマの遠吠え (新生)

シマの遠吠えが新生しました。 でも内容は変わらず、素人オーディオ感、SFやアクション映画の感想を軽いフレーズで書き込みます。

未来からのホットライン

 星野之宣による新作である。例によって、J.Pホーガン原作のSFを漫画化し、ビックコミック誌に昨年末から春にかけて連載された。「星を継ぐもの」の恩恵に預かり今回も・・といった商業的理由もあろうが、この二者による相乗効果は素晴らしいものがある。本作はどうかというと、これまたブラボーな出来だ。
 今回はオイラの好きなタイムパラドックスがテーマ。これまで同様、ハードSFの趣が磐石な土台を築いて見る者を真剣にさせる。物語は、ある発見と発明が招く世界滅亡の危機を主軸に主人公の恋物語を交えながら、最後は新しい未来の姿を我々に掲示してくれる。このアイディアが見事である。
 そもそもタイムパラドックスが絡むとなると、ハードSFに仕立てる事自体が大変だ。ボロが出やすく突っ込みの餌食になるからで、コメディーとして逃げるのが正しい選択だと思う。なのに見事な科学考証で隙を与えず、それでいて地味な佳作に終わらせないスケール感と緊迫感を有しているのだ。何よりも危機を乗り越えた後の始末が素晴らしい。
 大混乱を招きかねない発明と人類の共存を、あのような形で解決してしまうというのは予想だにしなかった。考えてみれば頷ける結末で、拍手したいほどだ。そして、本題が終息した後に主人公とヒロインの味な締め括りが心地よい余韻を残してくれる。
 本作は雑誌連載で観ただけでは魅力が伝わりにくいと思われる。なぜなら、タイムパラドックス関連の作品は、過去の同じ場面を繰り返す事が多く、それが作品の重大なポイントや伏線となっているからで、2〜3ヶ月前に見たシーンを思い出せというのも無理な話だ。
 幸い星野之宣作品には珍しく、この作品はキッチリ単行本1冊でまとめられている。価格は映画1本観るよりは安い。しかし、極上のSF映画を見終わった感動が得られる。