シマの遠吠え (新生)

シマの遠吠えが新生しました。 でも内容は変わらず、素人オーディオ感、SFやアクション映画の感想を軽いフレーズで書き込みます。

ゼロ タウン 始まりの地

 昨年のトロント国際映画祭で、注目を浴びたイギリス・イスラエル合作の戦時下ロード・ムービー。
 時は1982年、レバノン戦争におけるベイルートを舞台とする。そのパレスチナ・キャンプ付近にイスラエルの戦闘機が墜落。パイロットは捕虜となる。その捕虜となった主人公が苦難の末、国境を越えてイスラエル領に戻るまでの話・・で終われば、地味な「ブラックホーク・ダウン」だ。
 本作はパレスチナ難民の子供が捕虜を逃がし、敵国同士いがみ合いながらも越境の目的を果たす話であって、同行している内に二人の友情が芽生えていく。流れは王道パターンなれど、ハリウッドの様なエンターティメントに流れず、大変真面目な造りで観る者を真摯にさせる。
 難民キャンプの描写は、戦時下の生活様式が子供を通して実にリアルに描写され、そこに結構な時間を使っている。それが平和ボケした日本人には新鮮でもあり、作品としてもラストの子役の心情を語る上で大切な表現だったと観終わって実感した。

 テロリストの養成所が、まるで普通の学校のように子共達の目には写り、日常茶飯事に身近な人が死んでいく。そんな地獄でも、平和な国と家族愛や子供の遊び心、学校のモラルなどは何も変わらないのだ。しかし、その環境ゆえに子供にも酒、タバコ、銃が生活の一部となっている。こんな生活を送る子供の一人が爆撃で父を亡くし、その父の想いを果たすため捕虜を逃がして越境を条件とする姿は実に切ないものだ。
 越境は果たせど、結局子供は元の難民キャンプに返さねばならないのが大人の事情。本来敵国人である主人公は自分を逃がした子の本当の目的を果たすことにする。ラストの子供の顔には、初めて見せる清々しさが漂っている。この子役は素晴らしい演技をしていると思う。
 本来、オイラがレビューするような類の作品ではない。これは昔、中学校の体育館で観た文部省推薦映画を思い出す。派手な殺し合いのアクション映画ばかりを観ていると、たまにこうした作品で頭を洗濯しなければ脳が変になってしまうので、良い機会であった。