坂本冬美は当初、男の汗臭い詩をコブシを回して熱唱していた。最も嫌いなタイプの演唱である。それがイイチコのCM曲「また君に恋してる」が評判になったときから様相が変わった。
ムード歌謡がイケルと悟ったのか、Love Songsシリーズとして演歌を離れて6枚もアルバムを出した。そもそも演歌歌手は歌が上手いので、何でも出来ちゃうのだ。八代亜紀や藤あや子がジャズアルバムを出したところで何の不思議もないのである。
坂本冬美の声はファルセットになる瞬間がとても気持ちよく、声量も伸びしろに余裕を感じる。だからテレサ・テンのようなムード歌謡を歌うと、感情で力む必要もないので余裕たっぷりだ。とても安心感がある。
ただ、連発したLove Songsシリーズはほとんどがカバー曲で、やっていることは中森明菜の「歌姫」と変わらない。そんな中でも、3枚目の「愛してる…Love Songs III」だけは、Pops界の大御所達が書き下ろしたオリジナルであり、新鮮である。惜しいのは録音が今一つである。大きな音量に耐えられないのだ。
坂本冬美に限らず、演歌歌手は狭い枠を払拭したほうがいい。さすれば日本の歌謡界も、小娘が徒党を組んでる世界は終わるだろう。